『ソロモン諸島でビブリオバトル』目次・「刊行に寄せて」を特別公開!

刊行に寄せて ~南の島へ種を運んでくれた君へ~

「今度、青年海外協力隊でソロモン諸島へ行くことになりました。子どもたちに読書を広めてきます!」

 人懐っこくて屈託のない笑顔。おもしろい青年だなと思った。

 いや違う。おもしろい青年だとは知っていた。でも、勇気を持って、全く新しい挑戦へと向かう彼のことを、ぼくは眩しく思った。そして、うれしく思った。彼が南の島へと運んでくれる種は、ぼくが生み、皆と育てた花が実らせた果実だったから。

その種の名を「ビブリオバトル」と言う。

 本書がついに刊行に漕ぎ着けたことを心からうれしく思う。本書の元となった彼のブログ記事をリアルタイムで読んでは、その冒険と活躍に胸踊らせていた四年前を懐かしく思い出す。

 さて、ぼくと彼の出会いはそこから更に三年ほど前に遡る。

 二〇一三年のビブリオバトル首都決戦で、ぼくは初めて彼のことを知った。東京都が主催するビブリオバトル首都決戦は、年に一度のビブリオバトルの祭典、大学生の全国大会だ。ぼくが代表を務めていたビブリオバトル普及委員会が特別協力し、各地の予選会と地区決戦を取りまとめていた。

 ある日、そのビブリオバトル首都決戦の「予選会を開きたい」と一人の大学生から予選事務局に問い合わせがあった。それが彼だった。大学生自身も申請すれば予選会を開催することができる。そこに目をつけて「自分が首都決戦に勝ち進みたいから、予選を自分で開催したいんです!」というのだ。「おもしろい青年が出てきたなぁ」と笑ったことを思い出す。

 本書を読み終えた読者ならば、彼の人柄のよさと、その人物のおもしろさがわかるだろう。彼は首都決戦をきっかけに、ビブリオバトルと出会い、そして好きになった。首都決戦の終了後には、「バトラーだけじゃ物足りない。普及活動にも参加したい」と、ビブリオバトル普及委員会にも合流してくれた。

 やがて彼は「ビブリオバトルふしみ」を京都の伏見区を拠点に主宰し、様々なイベントも仕掛けていく。そして、皆に愛されるキャラクターと精力的な活動で、瞬く間にビブリオバトル界隈の人気者になっていったのだ。ぼくはなんとなく、「関西地区の中心的な人物に育ってくれたらうれしいなぁ」なんて思っていた。……と、思っていたところに「ソロモン諸島」と来たものだ。驚いた。興奮気味に。

 大学で教員の仕事をしながら、ぼくはぼくで、発案者兼普及委員会代表としてビブリオバトルの普及活動にも勤しんでいた。また、その頃には、ぼく以外にもビブリオバトル関連で各分野の一人者とでも呼ぶべき人物はたくさん生まれていた。それでも、自ら海外に飛び出して、ビブリオバトルを広めようだなんて言い出した人間は彼が初めてだったと思う。しかも、青年海外協力隊として。

 海外の子どもたちにビブリオバトルを届けたい。その想いは、ぼく自身の中にも確かにあった。でも、ぼくは大学を離れることができない。だから、ぼくはその種を、そっと彼に預けたのだ。心の中で。

 そして、彼は南の島へと飛び立った。

 後は、この本に書かれている通りである。ソロモン諸島で彼は孤軍奮闘。そのようすは時折ブログにアップされ、ぼくは彼の冒険と活躍を見守った。

 彼の活躍をネット越しに応援していたのは、ぼくだけではなかった。日本中、たくさんの関係者が彼の活動を応援していたのだ。その結果、彼は数多くの推薦を受けて、翌年、二〇一六年にビブリオバトル・オブ・ザ・イヤー(BoY)の初代大賞を受賞することになる。

 二〇一六年秋、仙台で開催されたBoYの授賞式の日、ソロモン諸島にいる彼は会場に来ることができなかった。だけど、その代わりに、彼は一本のビデオレターを会場へと送ってきてくれたのだ。

 会場の大きなスクリーンにソロモン諸島からのメッセージが流される。彼の顔がスクリーン一杯に映しだされ、感謝の言葉、ソロモン諸島での生活のようすなどの映像が流されていく。そして、ソロモン諸島の子どもたちがビブリオバトルを楽しむようすが映し出された。

 子どもたちはその手に持った本を紹介して、質問して、挙手して、賑やかに、ビブリオバトルに興じていた。ソロモン諸島の子どもたちの口から確かに「ビブリオバトル」という言葉が漏れる。みんなとても楽しそうだった。

 彼が運んだ「ビブリオバトル」の種はソロモン諸島で笑顔の花を咲かせたのだ。

 そのようすに思わず涙ぐむぼく。彼がビブリオバトルを見つけてくれたことに感謝したし、彼がビブリオバトルを好きになってくれたことに感謝した。そして、彼がそれを南の島へと届けてくれたことに感謝した。

 本書が伝えるのは、ビブリオバトルに出会い、青年海外協力隊になった青年の冒険と活躍の物語だ。でも、それは同時に、その周囲で彼が運ぶ種子を育てた仲間たちの物語でもあるし、それを受け取ったソロモン諸島の皆の物語でもある。

 ぼくはビブリオバトルの発案者として、そして彼の友人として、本書の出版をうれしく思う。多くの若者がこの本を読んでビブリオバトルに興味を持ってくれたらうれしいし、また、青年海外協力隊のことを知ってもらえるのもうれしい。

 だけど、本書のメッセージはそれだけではないのだと、ぼくは思う。この世の中には、種を生む人もいれば、花になり果実を結ぶまで育てる人もいるし、種を運び、また花を咲かせる人もいる。そうやってぼくらはつながり、文化は花開いていく。この本は、自分にできることを、自分のやり方で、思い切ってやっていこうと、読者がそんな風に前向きになれるメッセージが込められた本なのだとぼくは思う。きっと、大切なのはそういうことなのだ。そして、彼はそういう男なのだ。

 おもしろい青年は、今、日本に帰ってきて、そしてまた、ビブリオバトルの普及活動を引っ張ってくれている。彼との出会いと、彼の活躍に最大限の感謝を示しながら、本書の刊行に寄せる言葉としたい。

初めての書籍刊行おめでとう、益井くん。そして、ありがとう!

立命館大学教授/ビブリオバトル発案者 谷口忠大

二〇二〇年春 京都の自宅にて

『ソロモン諸島でビブリオバトル』

 益井博史/著 価格¥1400+税
 ISBN 978-4-86412-167-5

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オンラインショップでは2020年5月15日から、書店で注文すると5月12日から入手可能です。

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